Journalみうらの森林もりのジャーナル

みうらの森林の調査

京急電鉄の社有林は三浦半島の野比エリアと秋谷エリアの2ヶ所にあります。まず手を入れ始めたのは、野比エリアの社有林。社宅の裏につづく約44haの社有林は、横須賀市くりはま花の国と隣接し、林縁部には住宅地が広がっています。

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(2023年3月撮影)

2023年3月に撮影した写真からも分かるように、この森は落葉広葉樹の他に、冬でも葉を落とさない常緑広葉樹(照葉樹)が広く分布している、こんもりとした様子の森です。
道路や住宅に隣接している場所は、枝がはみ出したり暮らしの邪魔にならないように手入れを続けていましたが、森の内部はほとんど手付かずの状態。森づくりをすすめる前に、まずは「この森の中ってどうなってるんだっけ?」と調べるところからはじまりました。

調査の目的

木の成長はとてもゆっくりで、一度失われた植生を取り戻すのはとても大変です。そのため、森づくりは、50年100年と未来を見据えてしっかりと計画を立てた上で手を入れていかなければなりません。野比の社有林全体を今後どのように活用していきたいか、その森づくりの計画を立てるために、この森の特徴について専門家に依頼をして調査を行いました。

植生調査

森の状態を把握するために、どのエリアにどんな樹種が生えているかを調べる植生調査を行いました。森に10m×10mの調査区を設定し、その中に生えている一定条件以上の植物を調査・記録を行います。

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どんな木が生えているの?

沿岸部を流れる黒潮の影響で冬でも比較的暖かい三浦半島には、常緑の照葉樹が潜在的な植生として生育しています。野比の社有林にも、落葉広葉樹だけでなく照葉樹が広く分布しています。
植生調査の結果、この森は主にスダジイが優占する植生で、一部にマテバシイ、アズマザサが優先するエリアがあることが分かりました。
スダジイはもとからこの地域に生育する自生種です。また、スダジイが優占しつつも、中間層から下層にかけてはイヌビワ、ハゼノキ、ヤブツバキといった樹種が階層構造をつくって自生しており、多様性にあふれた森であることが分かります。

一方で、マテバシイが優占しているエリアは、かつてはマツ林だったという記録があります。マテバシイはこの地域の自生種ではないため、マツを伐って活用した後に人の手によって植えられたものだと考えられます。

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野比社有林の過去の利用

1960年代の航空写真によると、畑や萱場としての利用や薪炭材の生産のために大きく皆伐されていたエリアがあることが分かりました。皆伐されていたエリアは現在はアズマザサが一帯に茂るエリアとなっています。また、社有林の周辺にも田畑が広がっていましたが、横須賀市の人口増加とともに宅地へと変化しています。


京急電鉄が保有している森林エリアは、かつては人の暮らしのなかで森の資源が活用されていた里山です。里山から森の恵みをいただく暮らしでは、森の木を伐り木材として利用するほか、薪や炭などの燃料として、さらには落ち葉を集めて田畑の肥料として、余すことなく利用してきました。定期的に人の手が入ることで、林内は比較的明るく維持されていたと推測できます。
その後、鉄道延伸や開発のために京急電鉄が取得した土地ですが、計画が変更され長い間手付かずの状態が続きました。上層には照葉樹の葉が茂り、下層もヤブ化して人が入ることが難しくなってしまいましたが、三浦半島本来の自然林の姿や多様な生態系を残す貴重な森林となりました。

ゾーニング計画を立てる

貴重な生態系を残しつつ、再び人が安心して入れるような明るい森にしていくために、目的に応じた森林のゾーン分けを行い、これからの森づくりの計画を立てます。

この森は木材生産を目的としていないので、遊歩道をつけたり、広場をつくったり、アイデア次第で色んな側面をもった森へ活用していけそうです。

みうらの森林をただ保全するのではなく、人が安心して入ることができて、人と自然の接点になるような親しみやすい森づくりを目指しています。

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